「AIが代わりに買い物する」なんて、まだ先の話でしょ? そう思ってる? 違う。アメリカのShopifyの店では、もう始まってる。しかも、始めると決めたのは店の人じゃない。
前回の記事は、あとから決めた物差しは自分に甘くなる、という話だった。今日はその先。物差しを置く場所のほうが無くなる話をする。
「あなたが設定することは何もありません」
9月22日、Google Merchant Centerを使っている販売者のところに、Googleからメールが届いた。Search Engine Roundtableの Barry Schwartz が、クライアントのShopify店を見ている Menachem Ani がXに上げたその画面をまとめている。
文面はこうだ。「あなたのShopifyストアがMerchant Centerと紐づけられ、Google AI ModeとGeminiでのネイティブ決済が有効になりました」。続けて、「対象の商品は自動的に含まれます。あなたが設定することは何もありません」。
申し込んだ店への返事じゃない。条件に当てはまった店から順に、そうなっていく、という事後の通知だ。広い展開が始まったのはその前の金曜、9月18日(PPC Land)。
仕組みの名前はUniversal Commerce Protocol、略してUCP。Googleが2026年1月11日に発表した、AIエージェントと店と決済会社が同じ言葉で話すための規格だ。Googleのヘルプによると、買う人はGoogle Walletに入れてある支払い方法と配送先をそのまま使って、Google Payの流れの中で決済を終える。店は売り手のままで、注文も自分のところに来る。ただ、客は一度も店のサイトを踏まない。
自分から手を挙げた店は、外から26しか見えなかった
なぜ断りを取らずにオンにしたのか。ここが面白い。
今年の3月の時点では、AIの答えの中で売りたい店は行列に並ぶ必要があった。商品データに native_commerce という属性を足して、決済代行会社がGoogle Payのトークンを受け取れるか確かめて、米国向けの適格性を確認して、申込フォームを出して、早期アクセスの順番を待つ(PPC Land)。
その方式でどれだけ広がったか。AI検出ツールのOriginality.aiが5月に出した調査を、PPC Landが伝えている。PublicWWWで300万を超えるサイトを調べて、/.well-known/ucp というファイルの置き場所を探した。見つかったのは26サイト。しかも、UCPを一緒に作ったShopify、Etsy、Wayfair、Target、Walmartの主要ドメインには、どれも見つからなかった。
この数字は割り引いて読む必要がある。調査自身が断っているとおり、これは外から公開の形で見える実装しか数えられない。非公開でつないでいる会社は最初から入らない。だから「26社しか導入していない」ではない。正確には「店が自分の住所に旗を立てる方式だと、外からは26本しか見えなかった」だ。
そして今回、店が旗を立てる作業そのものが要らなくなった。Shopifyが代わりに立てる。数える単位が、店からプラットフォームに移った。
ついでに書いておくと、Googleの公式ヘルプは今日の時点でもまだ古い。さっきのUCP決済の説明ページには、いまも「この決済機能は現時点では一部の販売者のみ利用できます」「参加を希望する場合は、要件を満たしたうえでフォームを送信してください」と書いてある。フォームを出して待てと案内しているページの裏で、待っていない店のレジがもう開いている。
手数料ゼロの中身
Shopify側の設定は管理画面の「Sales channels > Agentic」にある。初期値は「Allow Shopify to manage for me(Shopifyに任せる)」。Shopifyの説明によると、これがオンのとき、商品はカタログ経由で各AIチャネルに渡り、対応しているチャネルでは直接決済が有効になり、そして新しく増えるエージェント型のチャネルにも自動で登録される。一度オフにしてあとで戻すと、直接決済を含めて全部オンに戻る。カタログへのアクセスを切った場合も、データの共有が実際に止まるまで最大7日かかる。
金は取られない。Shopifyの案内には、この直接決済に伴う手数料はなく、払うのは通常の決済処理手数料だけだと書いてある。Googleもメールで「顧客との関係、データ、売上の完全な所有権は、あなたが持ち続けます」と言っている。注文はどのチャネルから来たかの印つきで管理画面に並ぶ。そこは本当だ。
ただ、Shopifyの同じページにこうも書いてある。カスタムピクセルや商品バンドルなど、Shopifyの一部の機能は、Google AI ModeとGeminiの直接決済では使えない。
カスタムピクセルというのは、決済画面に自分で仕込む計測タグのことだ。これが乗らない。売れた事実は届く。でも、カートの中で客が何を見て、どこで手を止めて、何を外したかは届かない。
手数料は取らない。代わりに、レジの置き場所が移った。置き場所が移ると、そこに立ててあった計器も一緒に無くなる。これは値引きじゃなくて、交換だと思う。
クリックのほうも、外に出なくなってきた
同じ週にもう1つ。9月21日、実務者のGagan GhotraがXで、AI Overviewsの中の普通に見えるリンクを押すと、ウェブページではなくAI Modeに飛ぶ形をGoogleがテストしていると報告した(Search Engine Roundtable)。個人の観測で、テスト段階の話だ。それでも向きは分かる。買い物は答えの中で終わり、リンクは答えの中に戻る。
ただ、AIの売り場が全部こうなっているわけじゃない。Shopifyの説明によると、ChatGPTは今のところ「見つけてもらう場所」の扱いで、買う人はChatGPT内のブラウザか新しいタブで、店のサイトの決済に進む。直接決済が入っているのはGoogle AI ModeとGemini、Microsoft Copilot、Metaのほうだ。同じ「AIで買う」でも、金の通り道が違う。ここは今のうちに分けて覚えておくといい。
今日の本音
店に断らずにオンにしたこと自体より、その初期設定に「これから増えるチャネルにも自動で入る」が含まれているほうが、ずっとでかいと思う。今回の一件は、AI ModeとGeminiの話じゃない。これから出てくる売り場ぜんぶについて、店が一度も判断しないまま入り続ける道が、初期値として敷かれた話だ。
切ることは今でもできる。任せる設定を外して、チャネルを開いて、直接決済をオフにする。それだけだ。ただ、初期値をオンにすると決めた人の数と、それを切りに行く人の数は、絶対に釣り合わない。そこまで計算に入っている初期値だと思う。
参考・引用記事
- Google Merchant Center Auto Enables Native Checkout: Buy On AI Mode & Gemini(Search Engine Roundtable、2026年9月22日)
- Google switched on AI Mode checkout for Shopify stores without asking(PPC Land)
- Only 26 sites have implemented UCP - and the big names aren't among them(PPC Land)
- About the Universal Commerce Protocol (UCP) and UCP-powered checkout feature on Google(Google Merchant Center ヘルプ)
- Managing agentic storefronts(Shopify ヘルプセンター)
- Selling on Google AI Mode and Gemini(Shopify ヘルプセンター)
- Google AI Overview Links Pushing You To AI Mode Over Web Pages(Search Engine Roundtable、2026年9月22日)
- UCP (Universal Commerce Protocol), Agentic Commerce Adoption: Live Dashboard & Study(Originality.ai)
