「iPhoneの『追跡しないで』で、アプリ広告の効き目はもう戻らないんでしょ?」。そう思ってる? 半分はその通り。でもEUでは、あの画面そのものが書き換わり始めた。しかも、一度断った人にもう一度聞けるようになる。
前回の記事は、Googleが自分のサイトに貼ってくれと配ったボタンの話だった。今日もボタンの話。ただし今度は、ボタンに書いてある言葉そのものを、国の役所が書き直させた話だ。
「追跡」という言葉が、設定画面から消える
9月16日、Appleが開発者向けにお知らせを出した。iOS 27.2とiPadOS 27.2から、EUのアプリはApp Tracking Transparency(ATT)の確認画面に、もうひとつの版を使えるようになる。ドイツ、フランス、イタリア、ポーランド、ルーマニアの5か国で配るアプリは、法律上の理由で新しい版しか使えない。
ATTは、アプリを開くと出てくる、あの小さな確認画面だ。よその会社のアプリやサイトをまたいで、あなたの行動を広告に使っていいか。iOS 14.5から、アプリはこれを聞いて許可をもらわないと、iPhoneの広告IDを受け取れない。
Appleの開発者向けページを読むと、変わるのは見た目と言葉だ。新しい画面は書式と文言が変わり、「Additional Information(追加情報)」というボタンを置ける。アプリはそこで、何をどこの会社のデータとつなぐのか、自分の言葉で説明できる。
いちばん分かりやすいのは設定画面の名前だ。今は「Allow Apps to Request to Track」。アプリがトラッキングを求めるのを許すか、というスイッチだ。これがEUでは「Allow Apps to Request to Link Your Activity Across Companies」になる。会社をまたいであなたの行動をつなぐのを求めていいか、という名前だ。Track、という一語が消えて、中身の説明に置き換わった。
画面の中身は、まだ誰も見ていない。Appleは新しい文面も画像も出していないとMac Observerが書いている。iOS 27.2はまだベータで、公開日も決まっていない。
ただ、何を変えるかは8月の時点で出ている。9to5Macが伝えた変更は8つ。上の図柄の色をオレンジから青に。小さな窓ではなく全画面に。「track」という語を外す。ボタンは「許可」と「アプリにトラッキングしないよう要求」から、「許可」と「拒否」へ。
「トラッキングしないよう要求」が「拒否」になる。言葉が短く、平らになった。
断った人に、1年後にもう一度聞ける
マーケの人が一番反応するのは、たぶんこっちだ。
Appleのページにはこう書いてある。EUのユーザーには、前回の選択から1年たったら、もう一度ATTの画面を出してよい。前回「許可」だったか「拒否」だったかは問わない。
今までは、一度「しないで」と押されたら、そのアプリはもう画面を出せなかった。Mac Observerの言い方を借りると、「いいえ」の効き目が一生から1年になった。
逃げ道はひとつある。設定で、さっきの「会社をまたいで…」のスイッチを切っておけば、どのアプリも画面を出せないし、1年後の聞き直しも来ない。
そしてAppleは、いつ聞かなきゃいけないかのルールは変わらないと念を押している。トラッキングの範囲は同じ。変わるのは、聞き方と、聞ける回数だ。
役所は「同意を増やすためじゃない」と言った
なんでAppleがこんなことをするのか。ドイツの連邦カルテル庁に言われたからだ。
カルテル庁の8月17日の発表によると、手続きは2022年6月に始まっている。問題にしたのは、Apple自身のサービスと、よそのアプリとで、同意の聞き方が違うことだった。Appleのほうの画面は言葉も見た目も選択肢も「同意したくなる」作りになり得て、よそのアプリに押し付けた画面は「断りたくなる」作りになり得た、と。Appleは自分のルールは法律に合っているという立場のまま約束を差し出し、カルテル庁がそれを拘束力のあるものにして、手続きを閉じた。フランスとイタリアの競争当局は2025年に、ATTをめぐってAppleにそれぞれ1億5000万ユーロと9860万ユーロの制裁金を科している。
Appleの言い分もある。9to5Macによると、Appleは自社アプリにこの画面がないのは、アプリから集めたデータで狙った広告を出したり効果を測ったりしていないからで、よそのアプリも同じことをしなければ画面は要らない、と説明している。Appleの声明は、今の画面は分かりやすいと思っているが、求めに応じて文言と書式を変える、と言う。そして主導権を持つのは広告技術の会社やデータ業者ではなく、ユーザーだ、と締めている。
ここで一番おもしろいのは、カルテル庁のトップ、Andreas Mundtの一言だ。
「個人向けの広告への同意を、できるだけ高くすることを手伝うのが目的ではないと、はっきり言っておく」
彼が言いたいのは、断る人も許す人も、同じくらい自由に、分かったうえで選べるようにしたい、ということ。役所が守ろうとしているのは、ボタンの公平さであって、広告業界の同意率じゃない。
でも、同意率を気にする人がいるのも事実だ。TechCrunchは、ユーザーはたいていこの画面で「しないで」を選び、それがMetaのような広告で稼ぐ会社を苦しめ、Apple自身の広告事業を押し上げてきた、と書いている。「拒否」が「しないで」より押されやすくなるのか、押されにくくなるのか。それは5か国で新しい画面が出回ってから、数字で分かる。
日本の画面は、まだそのまま
日本でiPhoneを使っている人の画面は、今のところ何も変わらない。Appleが1年後の聞き直しをはっきり書いているのは、EUのユーザーについてだけだ。
ただ、ヨーロッパでアプリを配っている人には、準備の話になる。新しい画面では、アプリが自分の言葉で「なぜつなぎたいのか」を説明できる。今までも確認画面の手前に自前の説明を挟むことはできた。これからは、確認画面そのものに説明の入口を置ける。そこに何を書くかで、1年後に聞き直したときの答えが変わるかもしれない。
「追跡」を「会社をまたいでつなぐ」と言い直しただけで、何も新しくは許されていない。それでも、ボタンの一語をめぐって、ドイツの役所とAppleは4年やり合った。広告の世界でいちばん高くつく言葉は、たぶんボタンの上に書いてある。
参考・引用記事
- Updates to App Tracking Transparency in the European Union(Apple Developer、2026年9月16日)
- User Privacy and Data Use: ATT in the European Union(Apple Developer)
- Apple changes its rules for personalised advertising in apps(Bundeskartellamt、2026年8月17日)
- Apple will let EU apps use less-alarming tracking-consent screens(TechCrunch)
- Apple rewrites the EU tracking prompt in iOS 27.2 and renames the switch(Mac Observer)
- The eight changes Apple is making to App Tracking Transparency in Europe(9to5Mac、2026年8月18日)
- Apple will comply with 'fairer' App Tracking Transparency rules in the EU(9to5Mac、2026年8月17日)
