「ChatGPTに客を取られてるんでしょ?」
そう聞かれたとき、返す用の数字がある。「ChatGPTを使ってる人の95%は、Googleも使ってるよ」。Similarwebが出した数字で、2025年9月に95%、8か月後の2026年5月も95%。ぴくりとも動いていない。乗り換えが起きているならこの割合は下がるはずだから、起きていない。そういう読み方だ。
数字としては正しい。ただ、この95%はあなたのサイトのアクセスを1件も守らない。
前回の記事では、GoogleがAI Modeで商品の棚を27.8件から3.9件に絞った話を書いた。今日はその一段手前。そもそも人がどこを見ていて、どこへ出ていっているのか、という話。
95%は「月に1回検索した人」も入る
Search Engine JournalのMatt G. Southernによる記事が、この数字の中身を丁寧に分解している。読んでいて、ああそこかと思った。
95%というのは「重なり」の数字だ。ある期間に同じ人が両方のサービスに現れたかどうかを見ている。月に1回Googleで検索すれば、その人はGoogleユーザーとして数えられる。地図を見るため、ログインのため、店の営業時間を調べるため。調べものの主戦場をChatGPTに移した人でも、その3つが残っていれば95%の中に入る。
つまりこの数字は「誰がいるか」しか数えていない。「何回来るか」と「どこへ出ていくか」は、別の物差しで測るしかない。
その別の物差しはどうなっているか。ボッコーニ大学の研究が、ChatGPT Searchが使えるようになった世帯とそうでない世帯を比べている。使えるようになった世帯では、従来型の検索クエリが週あたり3.14件減った。もとの平均が週33.51件だから9.4%減。しかもこの差は時間とともに広がって、20週後には17.0%になる。
さらに面白いのが、減り方の内訳だ。学術サイトへの流入は32.8%減、辞書や事典のようなリファレンスは26.5%減、開発者向けサイトは15.1%減、ニュースは13.4%減。一方で、マーケットプレイスとエンタメ系はほとんど動かなかった。買い物と暇つぶしは検索に残って、調べものだけが抜けている。
同じ調査で、Googleの世帯到達率は約49%のまま動いていない。人はいる。検索回数だけが減っている。95%と9.4%は、矛盾していない。違うものを測っているだけだ。
AI Modeだけにされた1100人に起きたこと
3つ目の物差し、クリックの話。ここが一番きつい。
8月18日にarXivで公開されたStephanie T. Wangらの実験が、かなり乱暴で、そのぶん結果がはっきりしている。Googleをメインで使っている米国のChromeユーザー1100人を集めて、3日間ふだんの行動を観察したあと、1週間だけ3グループに分けた。ふつうのGoogle、AI Overviewsを隠したGoogle、そして検索が全部AI Modeに飛ぶGoogle。
もともとAI Modeを使っていた検索は0.6%。それを94.7%まで引き上げた。自分から少しずつ使い始めるのとは全然違う、強制的な全面移行だ。
外部サイトへのクリック率は18.8ポイント下がった。内訳では、Redditが21.2ポイント減、ニュースサイトが12.5ポイント減、Wikipediaが9.9ポイント減。1日あたりの検索セッションも0.92回減った(もとが4.0回)。一方で1セッションの滞在時間は0.43分伸びている。中で長く過ごして、外に出ない。
ここまでは想像がつく。想像がつかなかったのは、その先だ。
AI Modeに入れられた人たちは、満足していなかった。満足度は0.73標準偏差ぶん下がり、Googleで見つけた情報への信頼も7点満点で0.34ポイント下がった。そしてBing・DuckDuckGo・Yahooのどれかを使った人の割合が11.2ポイント増えた。逃げ道を探している。
便利になった代わりにクリックを失った、という話ではない。**クリックが減って、体験も悪くなった。**論文のタイトルがそのまま結論になっている。「AIによる検索はパブリッシャーへの送客を減らすが、ユーザー体験は良くしない」。
もちろん、1週間の実験だし、強制的に振り分けている。自分の意思でAI Modeを選ぶ人の体験は違うだろう。論文もそこは断っている。それでも、この方向に振ったときに何が起きるかの実測値としては重い。
空いていた枠に、Googleが手を入れ始めた
この実験でひとつ、見落としそうな数字がある。広告へのクリックが42.7ポイント減っている。理由は単純で、実験をやっていた時期のAI Modeには広告が出ていなかったからだ。枠が無かった。
その枠が、いま埋まり始めている。9月4日、Search Engine RoundtableのBarry Schwartzが、通常のSearchキャンペーンの絞り込んだマッチタイプがAI Modeで配信されているのを確認した。Googleの広告担当リエゾンGinny Marvinは「最近始まった小さな実験だ」と答えつつ、LinkedInのコメントでこう書いている。「完全一致とフレーズ一致のキーワードは、AI Modeでテキスト広告を配信する資格がある。ただしユーザーの意図が明示的で直接的な場合に限る」。
これまでAI Modeの中に広告を出す道は、AI MaxかP-Max、あるいは部分一致とスマート入札に限られていた。それが完全一致でも通るようになった。「小さな実験」と言われても、PPC側の人たちが色めき立つのは分かる。入口が1本増えたというより、入口の性質が変わった。
並べると構図がはっきりする。オーガニックのクリックは18.8ポイント減った。同じ画面で、広告の枠はゼロから増え始めている。人の数は95%のまま。
今日の本音
95%は嘘ではない。ただ、あの数字が守っているのはGoogleの立場であって、あなたのアクセス解析じゃない。
見るべき数字は「うちの読者はまだGoogleにいるか」ではなく、「Googleにいる読者は、まだうちに来ているか」だ。前者はたぶんYesのまま何年も動かない。後者はもう動いている。
参考・引用記事
- People Aren't Leaving Google For AI. They're Using Both.(Search Engine Journal)
- Is AI Replacing Search? What the 2026 Numbers Reveal(Similarweb)
- AI in Search Reduces Publisher Referrals Without Improving User Experience: Experimental Evidence(arXiv)
- Google Ads Tests Serving Search Ads With Restrictive Match Types In AI Mode(Search Engine Roundtable)
