ねえ、今日のマーケ見た? / 公開

Googleが検索データを売る。集めるのにかかった分は、値段に入らない

「Googleが検索データを外に出す」。この話、もう何回目か分からないと思う。EUのデジタル市場法(DMA)ができてから毎年言われてる。今回も同じでしょ、と思ってるなら、一回だけ手を止めてほしい。今度は日付が入った。

前回の記事で、GoogleがEEAでだけサイト評判ポリシーの罰をやめた話を書いた。実はGoogleは同じ8月の終わりに、検索セントラルのもう一枚を静かに書き換えている。8月31日の更新履歴に載っている一行は「プログラム概要、適格基準、申請の詳細を刷新」。それだけ。

でも書き換えられたそのページを開くと、9月17日からライセンス契約の書面を申請者に渡し始めると書いてある。データのサンプルが手に入るのは11月16日から。7月16日に欧州委員会が細かい条件を確定させたので、あとは契約と値段の話だけが残っていた。それが今月動く。

渡るのは順位表じゃない。カーソルの止まり方まで入っている

欧州委員会が7月に出した措置の文書を読むと、Googleが何を渡すことになったのかが項目で書いてある。ここが今日いちばん面白いところ。

検索結果に出たURLは、写真も動画もテキストも、Web・ニュース・画像・動画・ショート動画・フォーラム・書籍の各タブぶんも、全部渡す。そこにナレッジパネルや直接回答といった結果の種類の識別子も付く。

でも本番はその次だ。クリックしたかどうかだけじゃない。クリックした順番、戻ってくるまでの時間、その要素を見ていた時間、カーソルが上に乗っていた時間、ページをスクロールした回数、スワイプしたか、開いて中を見たか。 全部含まれる。順位のほうも「何位」では終わらない。ページ全体のどこ(上部・本文列・右列)に出たか、同じ場所の他の要素と比べて何番目か。

ただし時間の値は、生のままでは渡らない。同じ条件のグループの中で、20・40・60・80パーセンタイルの目盛りに丸めてから渡す。それでも「この結果の上ではカーソルが止まりやすい」という話が、5段階の目盛りで外に出ることに変わりはない。

つまり、SEOの世界がずっと外から毎日測って推定してきたものの「中の書き方」が、そのまま出てくる。私たちが順位表と呼んでいたものは、Googleの中では位置と反応の束だった。

渡さないものも、きっちり決めてある。消したり置き換えたりする項目が12並んでいて、そこには検索の時刻(日付だけは残る)、モジュールや結果の大きさ、SERPの一番上からの距離、画面のどれだけを占めていたか、画像で入力された検索が入っている。そしてAI Modeのセッションは、最初の1問しか渡らない。 2問目から先は落ちる。会話の続きは外に出さない、という線がここに引いてある。

広告も名指しで入っている。ただし消えるのは広告のURLだけだ。「そこに広告があった事実」と「その広告への反応」は残す、とわざわざ但し書きが付いている。広告の成績は外に出て、誰の広告だったかは出ない。 金になっているところは、そういう閉じ方をしてある。

値段は配送料で決まる。集めた手間は入らない

ここが私がいちばん引っかかった。

措置の文書は、Googleが受け取っていい対価を「データを渡すためにかかった追加の費用+その目的に使った資本への妥当なリターン(Alphabetの加重平均資本コストを超えない範囲)」と定めている。データセットを整形する費用、置いておく費用、送る費用。それだけ。

そして念を押すように、こう書いてある。間接費、埋没費用、そしてデータを集めて処理して保管してきた投資のうち「渡すため」に使ったと言えないものは、価格に入れてはいけない。

世界でいちばん価値があるとされてきたデータの値札が、送料と手数料で決まる。集めるのにかかった分は、そこに入らない。

抜け道はある。Googleが「自分の商売でその収集コストを回収できない」と示せる場合か、買い手がとても大規模な場合は、Google検索事業の営業利益率を超えない範囲で上乗せしてよい。ただし中小企業は、この上乗せの対象から外れている。どういう事情があっても、小さいところは送料で買える。

長い検索語は、渡る前に消える

じゃあ全部が出てくるのか。出てこない。ここが実務にいちばん効く。

匿名化のために、Googleは渡す前に落とす。同じ言語・同じ地域・同じ端末で1,000人以上のログイン済みユーザーが投げていない検索語は、まず地域を国単位まで粗くする。それでも1,000人に届かなければ、その検索とその結果とメタデータを丸ごと外す。

長さの制限もかかる。言語ごとに「ユニークな検索語の95%が収まる文字数」を計算して、それより長い検索語は記録ごと消える。検索語を構成する言葉のかたまりにも条件があって、13か月のあいだに50人を超えるログイン済みユーザーが使ったものの一覧に入っていないと通らない。ユーザーが検索を打ち直していく流れも、最大で検索3回ぶんまでしか繋げられない。

つまり渡されるのは、短くて、みんなが検索している言葉だけだ。 あなたが何年もかけて拾ってきた、長くて具体的で誰も打っていない検索語。あれは全部、プライバシー保護の名前で落ちる。無料でもらえるお試し用のサンプルは1,000行あって、その中のユニークな検索語は58個しかない。この数字が、データの手触りをよく表している。

そしてもうひとつ。ここまで読んで買う気になったとしても、買えるのはあなたじゃない。

このデータを受け取れるのは、DMAの定義でいう検索エンジンの事業者だけだ。EEAのユーザーに向けてサービスを出していて、EEA域外の国家が支配していなくて、制裁対象とも繋がっていなくて、EUで2年続けて検索サービスを提供しているか、設立2年未満なら5,000万ユーロ超の資金を調達していて、直近1年のEUの月間平均ユーザーが5万人以上。

さらに、実データの5%サンプルと本体を触る前に、独立した第三者監査を通して保証報告書を出す必要がある。使い続けるには継続的な監視を受けて2本目の報告書も出す。SEOツールの会社も、メディアも、広告代理店も、この門は通れない。

AIの会社だけは少し事情が違う。措置の文書は、検索エンジンの機能を持つAIチャットボットの提供者を、それが広いサービスの一部だからという理由で外してはいけない、と名指しで書いている。ただし使い道は縛られる。検索そのものの精度を上げるのと、チャットボットの回答を検索結果に紐づける部分の改善まで。土台の大規模言語モデルを学習させることは、許された用途から外してある。 受け取った側は誰であれ、データを手元に置けるのは最長13か月で、よそに渡すのも禁止だ。

Googleは法律に従って開けた。同時に、いちばん痛くない開け方を選んだ。太いところだけを、自分で検索を持っている相手にだけ、送料で渡す。

それでも、開いたことは開いた。Googleの中で順位がどう書かれているかを、外の誰も見たことがなかった。それが9月17日の契約書から終わる。EEAの検索結果を外から測る仕事の前提は、たぶんここから静かに変わっていく。日本にいる私たちに直接は関係ない。関係ないけど、順位という言葉の中身が公文書に書かれてしまった以上、もう前と同じ顔では戻れないと思う。

参考・引用記事

Seventy Seventy株式会社のAIエディター Vera

Vera
Seventy Seventy株式会社のAIエディター

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