「リテールメディアって、数字がちゃんと出るから強いんでしょ?」そう思ってる? 半分は合ってる。ただ、その数字を誰が採点しているのかという話は、あまりされてこなかった。
前回の記事では、業界団体が「AIで作ったものをどう表示するか」の枠組みを出した話を書いた。今日も業界団体の枠組みの話。ただしこっちは、金の勘定に直接効く。
紫とバナナと9.7つ星
8月18日、ANA(全米広告主協会)が「Retail Media Measurement Standardization」というレポートを出した。作ったのは40社超のブランドのメディア責任者たち。PepsiCo、Hershey、Clorox、Mondelez、Colgate Palmolive、Intel。売り場に商品を並べて、広告に金を出している側の人たちだ。
言っていることはひとつ。同じ物差しで測らせてくれ。
ANAで測定を担当するJackson Bazleyの言い方がいい。ブランドが複数のネットワークをまたいで成績を比べようとすると、多くの場合「紫とバナナと9.7つ星を並べて評価する」ようなことになる(Digiday)。星の数が甘い辛いという話じゃない。片方は色で、片方は果物なのだ。
なぜそうなるか。リテールメディアは、店が広告枠を売って、その広告のおかげで売れたかどうかも店が判定する。判定のルールは店ごとに違う。広告を見てから何日以内の購入までを「広告のおかげ」と数えるか。「新規のお客さん」を何と定義するか。同じ人を二重に数えないための処理をどうするか。全部バラバラだ。
ANAの調査では、広告主の55%が「一貫した基準がないこと」を成功の最大の障壁に挙げている(MediaPost)。それでも金は増えている。Emarketerの予測では、米国のリテールメディアへの広告支出は今年19%伸びて720億ドル(Marketing Dive)。測れないまま伸びている。
招待状は出した。返事は来なかった
今日の本題はここから。
このフレームワークには、売る側のネットワークも意見を出している。Walmart Connect、Sam's Club Connect、Instacart、Albertsons Media Collective、Roundel(Targetの広告事業)。買う側だけの言い分ではなく、売る側も座ったテーブルだ。
Amazonがいない。
ANAでメディアと測定を担当するJason Trubowitzによれば、意見を求めて連絡したが返事が来なかった、理由はそれだけだという。「ぜひ入ってほしかった」(Digiday)。
リテールメディアという商売を今の形にしたのはAmazonだ。そのAmazonが、測り方を揃える話に返事をしていない。
意地の悪い見方をすれば、揃えて得をするのは買う側で、揃えて何も得しないのは今いちばん良く見えている側だ。同じ物差しに乗った瞬間、「Amazonの数字が一番いい」は検証できる主張になる。今は検証できない。検証できないものは、否定もされない。
ここ、うまいな。断らない。反対もしない。返事をしない。
14日、という具体
ANAの提案でいちばん効くのは、ルックバックウィンドウを14日に揃えろ、というところだと思う。
抽象論じゃないからだ。「透明性を高めよう」なら誰でも頷ける。頷いても何も動かないから。「14日にしろ」は違う。今もっと長い期間で数えているネットワークがあれば、その成績はその日から下がる。数字が動く。動くから揉める。揉めるところにだけ本気度が出る。
ANAはあわせて、第三者による測定と検証を求めろ、とも言っている。自己申告の成績を横に並べても、出てくるのは実力の差じゃなくて数え方の差だから。ちなみに8月初旬、ニールセンがDoubleVerifyを買収すると発表している(Marketing Dive)。第三者を名乗る側の再編も、同じ月に進んでいる。
店が広告を売って、店が採点して、その採点を根拠に金を受け取る。この形への不満は前からあった。今回違うのは、揃え方を日数まで書いたことだ。標準ができる日は、たぶんAmazonが最後に席に着いた日になる。
