「AI業界が金を積んで世論を買いに来た」。そう読むのが自然だと思う。私も最初はそう読んだ。でも中身を開けたら、買いに来ていなかった。
前回の記事は、モデルが契約書の一行で止まる話だった。今日はその下の階。データセンターが、票で止まりかけている話。
3100万ドルが動いて、その99%が「建てるな」だった
8月31日、CNNが選挙広告の中身を数えた記事を出した。集計はAdImpactで、8月26日時点の放送テレビ分。
今年これまでに、データセンターに触れた政治広告へ3100万ドル超が投じられた。7月だけで1600万ドル超、その月の放送テレビの選挙広告費の8%を超えた。去年は1%未満だった。2024年にいたっては、データセンターに触れた放送広告は1本も存在しない。2年で、無かったものが8%になった。
効くのは内訳のほうだ。この金の99.98%が、データセンターに反対する内容だった。しかも党派で割れていない。共和党側が55%、民主党側が42%。反対広告を多く出しているのは共和党のほうだ。
最前線はオハイオの上院選。民主党のシェロッド・ブラウンは7月以降、3本のテレビスポットに350万ドル超をかけて、現職のジョン・ハステッドをデータセンターで叩き続けている。
8月20日に書いた記事で、共和党全国上院委員会(NRSC)がAI企業に配った非公開メモを取り上げた。8月18日付、表題は「Ohio Data Center Risk」。要旨は「経済のひとつの分野まるごとに染みついた悪い評判は、選挙陣営には直せない。企業が自分で直すしかない」。CNNも同じメモを引いていて、そこにはこうある。「ブラウンがこれを使うのは、効くからだ」。この選挙のどんな要素よりも、データセンターがハステッドの足かせになっている、と。
あれから13日たった。
5000万ドルが、選挙の土俵に上がってきた
8月31日、Build American AIという団体が広告キャンペーンを発表した(Axios)。501(c)(4)の非営利で、手元資金は約5000万ドル。カンザス、オハイオ、ウィスコンシンから始める。使い道は有料広告、草の根の働きかけ、調査、報道の獲得、啓発。州議会が2027年の会期に向けて法案を作り始めたら、対象を広げるとしている。
繋がっている先はLeading the Future(LTF)。AI業界のスーパーPACで、a16zから5000万ドル、OpenAI社長のグレッグ・ブロックマンと妻のアンナから2500万ドルが入っている。
新しいのは金額じゃない。LTFの金は、これまでAIの話を一度もしないで使われてきた。6月までに約4500万ドルを使ったと報告しているが、系列2団体が出した800万ドル分の放送広告のうち、AIやデータセンターに触れたものは1本もない。候補者を「実績ある闘士」と呼び、トランプの推薦状を映していた。MetaとGoogleが出資するCalifornia Leadsも、150万ドル超を使ってテックにもAIにも触れていない。選挙の広告として金を使うとき、業界は自分の名前を出さなかった。
例外はある。Anthropicから4000万ドルが入っているPublic First Actionは、AI政策を正面から扱う広告に、系列のスーパーPACと合わせて1000万ドル超を使っている。ただしこの団体が求めているのは規制のほうだ。MetaとOracleも自社のデータセンターの雇用を宣伝する広告を出しているが、こちらは選挙戦の外側での話になる。
つまり、選挙の争点としてデータセンターに賛成する側の金が、正面から土俵に上がってくるのは、ここが初めてになる。
ここで思い出しておきたい文章がある。OpenAIは6月1日、政治との関わりについて表明を出した。会社としてスーパーPACに献金は一切していない、社員のPACも持っていない、候補者や陣営への献金もしていない。ブロックマン夫妻の関与は個人としてのもので、会社はLTFの活動を指示していないし、中の動きも見えていない。その同じ文章にこうある。
「AIについて主張する団体は、自分の政策上の立場をはっきりさせ、誰を代表しているかについて正直であるべきで、政策立案者や市民が直面している本当の選択肢を見えなくするような、草の根を装うやり方は使うべきではない」
そして今回、そのLTFと繋がった団体の予算項目に「草の根の働きかけ」が並んだ。公式サイトは「運動に参加しよう」と呼びかけていて、議員にメールを送るボタンがある。
装うことと、働きかけることは違う。ここは混ぜない。ただ、その線をどこに引くかを決めるのは、いま金を出している側だ。
手本に選んだのは、業界を止めた知事だった
いちばん引っかかったのはここ。Build American AIは、あるべき進め方の手本としてコロラド、ジョージア、テキサスの3州を挙げた。
テキサスのグレッグ・アボット知事は、去年11月にGoogleと400億ドルの投資を発表して、テキサスを「AI開発の震源地」と呼んだ人だ。それが6月、電力設備の費用を全額データセンター側に負担させるよう規制当局に指示した。8月には、電気と水の使用量の監査が終わるまで新規の接続を認めるなと命じている。本人の言い方はこうだ。「はっきり言えば、テキサスの人たちが最優先だ」。
推進派は、業界に強くブレーキを踏んだ共和党知事を、ちょうどいいバランスの見本として持ち出した。使った分は自分で払え、という条件を先に飲んでみせた形になる。発表文の一行が全部言っている。「データセンターと新しいエネルギー設備の建設は、まず地域の利益にならないといけない。我々はその目標を進める指導者を支持する」
ここでさっきのNRSCのメモに戻る。あの紙には続きがあった。「OUR MESSAGE」という欄にこう書いてある。アメリカの人たちは、住民投票で地域が承認した場所にだけデータセンターを建てさせ、電力も水もその他の公共料金も自分で払わせる、という共和党候補のほうを、圧倒的な差で支持している。建設を全部止めろという民主党候補より、と。
読み比べてほしい。13日前に選挙の玄人がAI企業に配った紙の答案と、業界の金が発表した広告のメッセージが、ほとんど同じ形をしている。
そうなる理由は数字を見れば分かる。Annenberg Public Policy Centerが6月16日から7月19日に成人1320人に聞いた調査では、自分の地域に新しいデータセンターを建てることへの反対が61%。3月の49%から12ポイント上がった。賛成は14%まで落ちている。共和党支持者でも54%、無党派53%、30歳未満では70%が反対。
61%を相手に、5000万ドルで賛成を作るのは無理だ。だから作りに行っていない。作りに行ったのは「条件つきの賛成」のほうだ。
8月に私は、票は議論しない、ただ数えるだけだと書いた。今回わかったのはその続き。票は議論しないけど、値段はきっちり吊り上げる。世論を動かすと言って動いた5000万ドルが、最初に動かしたのは推進派自身の言い分だった。
参考・引用記事
- A uniquely bipartisan backlash against data centers shakes up the midterms(CNN)
- Exclusive: AI advocacy group launches data center push in battleground states(Axios)
- A group funded by Andreessen, Horowitz, and Brockman plans data center ads to sway midterms(TechCrunch)
- NRSC data center memo(DocumentCloud、2026年8月18日)
- Our views on AI policy and political advocacy(OpenAI、2026年6月1日)
- Build American AI(公式サイト)
- Opposition to Local Data Centers Rises Sharply, Annenberg Survey Finds(Annenberg Public Policy Center)
