「AIの規制の話って、どうせワシントンで揉めてるだけでしょ」そう思ってる? 私もだいたいそう思ってた。違った。今週いちばん重い動きは、法律の話じゃなかった。オハイオ州の上院選から出てきた。
前回の記事では、OpenAIが自分のモデルを見張るために、計算を2割よけいに使うことにした話を書いた。あれは安全のコストを自分の帳簿の中で払う話。今日はその逆で、外から請求書が届いた話をする。
「業界まるごとの評判は、選挙陣営には直せない」
8月19日、Axiosが共和党全国上院委員会(NRSC)の非公開メモを入手して報じた。宛先は主要なAI企業。表題は「Ohio Data Center Risk」。
事情はこうだ。オハイオ州の上院選で、民主党のシェロッド・ブラウン陣営は、現職のジョン・ハステッド上院議員を「オハイオのデータセンターの顔」と呼ぶ広告に数百万ドルを投じている。この州にはNvidiaやOpenAI、Meta、Vantage、QTSの大型データセンター計画が並んでいる。誰も争点になると思っていなかったものが、争点になった。NRSCはこれを、選挙サイクル全体を通して静かに効いてくる争点だと書いている。
そのうえで、メモはAI企業にこう言う。
「選挙陣営や党の委員会に、経済のひとつの分野まるごとに染みついた悪い評判は直せない。これらのプロジェクトを建てる必要がある企業が、オハイオの人たちの見え方を自分で直すしかない。誰が得をして、誰が払って、なぜ地域がそれを欲しがるべきなのか」
そして、それが直るまでこの問題はこの選挙を支配し続ける、と続ける。
もうひとつ。「もし彼が負けて、データセンターがその原因だとされたら、全国の政治家がそれに気づく。そして次のには近寄らなくなる」
読んで最初に思ったのは、これ、お願いの形をしてるけど中身は切り離しの通告だな、ということ。長いことAI企業の側に立ってきた人たちが、「あなたたちの評判はうちの持ち場じゃない」と線を引いた。しかも、線を引く理由を丁寧に説明までしている。
反対しているのは民主党支持者だけじゃない
線を引きたくなる理由は、数字を見るとすぐわかる。
Fox Newsが5月28日から6月1日にオハイオの登録有権者1,015人に聞いた調査では、自分の地域にAIデータセンターを建てることに賛成32%、反対65%。内訳のほうが効く。民主党支持者の72%、無党派の64%、そして共和党支持者の59%が反対している(IBTimes)。党派で割れていない。
全米でも同じ方向だ。7月17日から20日にかけてのFox Newsの調査(登録有権者1,003人)では、賛成30%、反対70%。反対する人の半分は、理由に環境を挙げた。電力、水、汚染、騒音。
でも一番はっきり出ているのは、その次の設問だと思う。「環境や地域の懸念に対処しながらゆっくり建てる」を選んだのが10人中8人近く。「できるだけ早く建てる」は10人に2人。急げと言っている人は、5人に1人しかいない。
肝心の上院選は、8月13日に出たFox Newsの調査(8月6日から10日実施)でブラウン53%、ハステッド45%。8ポイント差で、6月から動いていない。
AI全体への目も冷たくなっている。Pew Research Centerが8月18日に出した調査では、アメリカの成人の52%が「日常でAIが増えることについて、期待より心配のほうが大きい」と答えた。2021年は37%。逆に「期待のほうが大きい」は18%から9%へ、半分になった。18歳から29歳では55%が心配のほうが大きいと答えていて、この年代で過半数を超えたのは初めてだ。
そして同じ週、反対側からも動きがあった。8月18日、ペンシルベニア州のジョシュ・シャピロ知事(民主)が、データセンターに厳しい歯止めをかける行政命令に署名している。電力インフラの費用は開発側が全額負担。地域との協議は開かれた形でやる。地元の雇用と、地域への利益の協定。環境基準。AIデータセンターは州の早期許可プログラムから全部外した。
シャピロの言い方が一番わかりやすい。「データセンターを建てる人たちへの私からのメッセージははっきりしている。うちの厳しい要件に同意できず、建てたい場所の地域から『イエス』をもらえないなら、州の支援も得られない」
シャピロは2028年の大統領選を考えていると言われている人だ。つまり同じ週に、共和党の選挙部門と、次の大統領選を睨む民主党の知事が、同じ判断をした。AIデータセンターの隣に立っても票にならない、と。
約束を果たすまでの時間と、11月までの時間
その3日前の8月15日、AnthropicのCEOダリオ・アモデイがXに長い投稿をしていた。AIへの反発はお前の危険発言のせいだ、という批判に答えたものだ(TechCrunch)。
「これは根本的に信頼の危機だと思う。普通の人は企業も政府もテック業界も信じていなくて、我々がまた新しいやり方で自分たちを出し抜こうとしているんじゃないかと、いつも疑っている」
そのうえで彼は、Anthropicを含むAI企業への批判で一番正確なのは「世界の役に立つという大きな約束を、我々がまだ果たしていない」ことだと認めた。AIががんを治すと約束するのは「心を動かすというより、ありきたりだ」とも書いている。人のAIへの見方を実際に変えるのは、「実際にがんを治すこと」のほうだ、と。
正しいと思う。ただ、この話には抜けているものがある。時間だ。
大きな約束を果たすには何年もいる。オハイオの投票日は11月に来る。この2つの時計は、速さがまるで違う。
AI業界がずっと身構えてきた相手は規制当局だった。法案がどう転ぶか、当局が何を言うか。でも今週わかったのは、その手前に票があるということ。票は議論しない。ただ数える。
参考・引用記事
- Exclusive: GOP warns AI companies that data centers are politically radioactive(Axios)
- The GOP Is Warning AI Companies Over Data Center Backlash. The Ohio Senate Race Could Be A Test.(IBTimes)
- Fox News Poll: Voters reject data centers(Fox News)
- Fox News Poll: Ohio Senate race(Fox News)
- Young adults in the U.S. are increasingly wary of AI(Pew Research Center)
- Governor Shapiro Signs Executive Order on Data Center Development in PA(Commonwealth of Pennsylvania)
- Anthropic CEO says AI backlash is 'fundamentally a crisis of trust'(TechCrunch)
