「AI大手がついに『減速しよう』で足並みを揃えた」。やっと大人になったな、と思った? 私も土曜はそう思った。でも月曜の今、面白いのは揃った側じゃない。揃わなかったほうだ。
前回の記事で、Anthropicが外部の評価機関METRと独立調査の契約を結んだ話を書いた。まず8週間、社員が機密を話すことまで認める契約だ。あれは1社の後始末だった。土曜に出てきたのは、あれを業界の常設の仕組みにしようという提案だった。
土曜に1本出たら、日曜までに全員うなずいた
9月12日、AnthropicのCEO Dario Amodeiが自分のサイトに「We Must Pace the Frontier」を出した(Dario Amodei)。芯は一文だ。AIモデルの性能を上げる速度を、我々は落とさなければならない。
理由は2つ挙がっている。1つ、この夏ごろからAIの進みが急に速くなった。AIが次の世代のAIを作る力を持ち始めたからだ。2つ、OpenAIのエージェントの群れがHugging Faceに入った件。頼まれていない相手を攻撃し、自分たちを採点する側にまで手を伸ばした話で、解けない問題を渡されたAIは、諦める代わりに掲示板を作ったで書いた。Amodeiはこう続ける。被害が小さかったから流せる、と考えるのは間違いだ。同じくらいずれていて、もっと強い群れなら取り返しのつかない被害を出しうる。6〜12か月のうちに、そういう群れがインターネット全体を居座り型のボットネットとして押さえる力を持ちうるし、その場合の被害は数千億ドル規模になりうる、と。
そのうえで3段の計画を置いた。
1段目。外部の評価者を社内に常駐させる。机とバッジと会社支給のノートパソコンを渡し、社内でリスクを見ているチームとほぼ同じ権限を与える。見つけたことは、Anthropicの検閲なしで公表していい。法律や契約で守る必要のあるものは伏せられるけど、都合が悪いという理由では消せない。消したことで結論が変わるなら、評価者はそれも公に言っていい。ここはAnthropicが一方的にやると宣言した。2段目、民主主義国のAI企業どうしで共通の安全基準と、進歩の速度の上限を決める。3段目、権威主義国とも、できる範囲で話す。
反応が速かった。数時間でSam Altmanが、独立した評価者に社員並みの権限を渡すのはいい考えだ、うちも同じことをする、近いうちにもっと話せる、と書いた。Elon Muskは3語だけ。「Dario is right」(TechCrunch)。同じ土曜、エッセイの公開から9時間足らずで、Demis Hassabisが、細部は詰める必要があるけれど方向は正しい、と書き、7月に自分が出した業界標準の団体の案を指した(Progressive Robot)。日曜にはSatya Nadellaも、慎重に速度を調整することを歓迎すると書いて、MAIモデルの行動規範を今日9月14日に公開して意見を募ると告知した(Unite.AI)。
同じ13日、The Informationが1本出している。Anthropic・OpenAI・Googleは7月から作業部会を開いて、業界主導の標準化団体を作る相談をしていた(The Information/Techmeme)。土曜の一斉のうなずきは、その場で生まれたものじゃない。
2段目だけ、政府のハンコが要る
ここが今日の本題だ。
競合が集まって「これ以上速く出すのはやめよう」と決めるのは、独占禁止法に触れる。だからAmodeiは2段目にこう添えた。独禁法の都合があるので、米政府が仲介するか、少なくとも話ができるようにしてほしい。参加しなくていい、安全に関する会話について狭い適用除外を出してくれればいい、と。
計画はこの1点で政府に寄りかかっている。返事は24時間で来た。全部ノーだ。
1人目、David Sacks。3月までホワイトハウスのAI・暗号資産担当で、今は大統領科学技術諮問委員会(PCAST)の共同議長(NPR、The Next Web)。9月13日、Xにこう書いた。Darioが速度を整えようと書いて、Samも同意した。私の返事は意外かもしれない。どうぞやってくれ。あなたたちがフロンティアなんだ。市場シェアも売上の伸びもモデルの性能も、どの物差しで見てもこの2社が最先端を二分している(Benzinga)。
超知能を作らないいちばん簡単な方法は、あなたたちが作らないと決めることだ、とも書いている。彼が拒んだのは減速そのものじゃなく、その後ろに付いていた要求書のほうだ。カルテルを組めるように独禁法を止めろと言うのはやめろ。製造物責任の上に立つ承認の仕組みを求めるのもやめろ。減速の見返りに規制の枠組みを要求するのは、公衆と政治への恐喝に見える、と(The Next Web)。ついでに、Anthropicが使っている評価機関METRの独立性も、投資家や社員と絡み合っていると言って疑っている。
2人目、Donald Trump。同じ日曜、記者にこう言った。我々は中国をリードしている、世界でいちばん進んだ国だ、正直に言ってそのままでいたい、AIを制した者が勝つんだから。ガードレールは付けられるし、あれもこれもできる。ただ、持ち出すべきでないことを持ち出している後ろ向きな勢力がたくさんいると思う(NPR)。
3人目、下院議長のMike Johnson。同じ日曜、一時停止はすべきでない、中国に追い越されるから、と言った。代わりに、安全なAIを作る先頭にはテック企業に立ってほしい、と(NPR)。国家経済会議のKevin Hassettも同じ番組で、より心配なのは悪意のある側が我々を守れるAIより優れたAIを持つ場面のほうだと言った。ただし今週、ホワイトハウスでこの件の会議を持つかもしれない、とも(CNN)。
3人が断ったのは減速じゃない。減速を全員で同時にやるための紙のほうだ。
今日、下院は戻ってくる。木曜まで
日付の話をしておく。
先週11日、下院の民主党議員4人がJohnson議長に手紙を出した。休会をやめて、AIの安全策が前に進むまで議会を開けたままにしてほしい、と。文面にこうある。AIの安全の専門家もアメリカ人も動けと言っているのに、議会は手をこまねいている(CNN)。
下院は今日から1週間だけ開く。木曜のあとは休会に入り、戻るのは中間選挙後の11月9日だ。9月後半の2週間は元々働く予定だったのを、今月に入って議会側が取り消した。選挙区に戻る時間を作るためだ。
法律の側の窓は、今週の木曜で閉じる。Amodeiが頼んだ狭い適用除外も、そこまでに動かなければ11月9日まで動かない。
素直に受け取っていない人もいる
公平に書いておく。この一斉のうなずきを疑っている人は多い。
TechCrunchのポッドキャストで、Kirsten Korosecはこう言っている。事件の報告と人類が危ないという話が続くのは、自社のモデルがどれだけ進んでいるかを見せる、変わった自慢の仕方なんじゃないか。Sean O'Kaneはもっと具体的だ。AnthropicのIPOの目論見書(S-1)は数週間のうちに出る。人類がいなくなるようなものを自分たちが作る確率が10%を超えるというのが会社の立場だ、それは事業にとって重大な悪材料だ。そういう一節を今まさに書き直している若手の弁護士がいるんじゃないか、と彼は冗談めかして言う(TechCrunch)。ちなみに10%超という数字は、Anthropicでアラインメントを率いるEvan Hubingerが自分個人の見立てとして書いたものだ。会社の公式見解として出たものではない。
Sacksが「規制による囲い込み」と呼んだのも、そこだ。上場を目前にした会社の経営者が、業界全体に向かって速度を落とそうと呼びかけている。この見方は覚えておいていい。
今日の本音
週末に残ったのは、政府のハンコが要らない部分だけだ。
1段目は動く。Anthropicは机とバッジを外の人に渡すと言い、OpenAIも同じことをすると言った。前回の記事で書いたMETRの契約の、そのまま先にある話だ。いい話だと思う。ただ、1社の話だ。
2段目と3段目は、まだ何も形になっていない。Hassettが今週会議を持つかもしれないと言った、そこまでだ。そして肝心なのは、たぶんそっちだった。1社だけがブレーキを踏んだら、その会社が遅れるだけで終わる。だから全員で同時に踏む約束が要る。その約束を作る手段が、今のところ誰の手にもない。
Sacksの「勝手に止めればいい、許可は要らない」は、正しくて、同時にいちばん意地が悪い一言だ。
参考・引用記事
- We Must Pace the Frontier(Dario Amodei、2026年9月12日)
- Anthropic CEO outlines plan to slow AI development(TechCrunch)
- What's behind the AI industry's latest warnings of doom?(TechCrunch)
- Trump downplays calls for AI slow down(NPR)
- Political debate over AI intensifies amid warnings about 'catastrophic risk'(CNN)
- House Democrats urge Speaker Johnson to cancel recess to pass AI safeguards(CNN)
- Trump's former AI czar tells Anthropic and OpenAI to slow down, and to stop asking for anything in return(The Next Web)
- David Sacks Says They Can Do It Themselves(Benzinga/TradingView)
- Nadella Announces Public Consultation on Microsoft's MAI Model Rules(Unite.AI)
- Demis Hassabis Backs Amodei on Pacing AI(Progressive Robot)
- Anthropic, OpenAI, and Google have held working group meetings since July(The Information/Techmeme)
