「Moment of Truth」というマーケティングの概念がある。お客様がブランドへの印象を決める瞬間のことで、調べる瞬間(ZMOT)、買う瞬間(FMOT)、使う瞬間(SMOT)、誰かに話す瞬間(TMOT)の4つに分けて考える。詳しい定義はいくらでも出てくるので、ここでは触れない。
2年前、この概念を解説する記事を書いた。4つの瞬間それぞれに、チェックすべき問いを4個ずつ、計16個並べた。
今読み返すと、正しいことしか書いてない。そして、正しいだけの記事だったと思う。
16個の問いは、一度に使わない
実際の支援の場で、16個の問いを順番に全部チェックしたことは一度もない。
やっているのは逆で、お客様の話を聞きながら「今どの瞬間の話をしているんだろう」と頭の中で場所を確認する使い方。地図として持っておいて、迷子にならないために見る。そういう道具だという気がする。
たとえば「問い合わせが減った」という相談。話を聞くと、広告もサイトも変えていない。変わったのは口コミだった。半年前についた低評価レビューに返信をしていなくて、それが検索結果に出続けていた。
これはZMOTの問題。でも本人たちはFMOT(サイトや広告)を疑って、リニューアルの見積もりまで取っていた。地図があると、「直す場所、そこじゃないかもしれません」が言える。
効いた問いは、だいたい地味
16個の中で、実際にお客様の顔つきが変わった問いを挙げると、こういうやつになる。
「使用中に困ったとき、サポートは適切に提供されているか?」
ある会社で、解約理由の上位が「使い方がわからなかった」だった。製品は悪くない。届いてから最初に触る日のフォローが何もなかった。買った瞬間までは全力で、買った後は放置。SMOTが丸ごと空いていた。
「ネガティブなフィードバックがあったときに、迅速に対応できているか?」
さっきのレビューの話。悪い口コミを消すことはできないけど、返信は今日できる。返信がある店とない店、どちらを選ぶかは自分がお客の立場になれば分かる。
派手な問いより、当たり前すぎて誰も見ていない場所を指す問いのほうが効く。そういうものかもしれない。
調べる場所が増えた
2年前と明確に変わったのはZMOT。
以前は「検索したときに見つかるか」「レビューはどうか」を見ればよかった。今はそこにAIが加わった。ChatGPTやClaudeに「◯◯ おすすめ」と聞く人が普通にいて、そこで名前が出るかどうかも、お客様が最初に触れる瞬間になっている。
検索がAIに置き換わったとは思っていない。調べる場所が一つ増えた。ZMOTの範囲が広がっただけで、「お客様はどこで情報を探しているのか」という問い自体は2年前のまま使える。問いが変わらないのに答えが変わる。概念が生きている証拠だと思う。
自分はコンセプトダイアグラムと組み合わせている
前の記事では「カスタマージャーニーと合わせて使う」と書いた。ジャーニーマップ自体は良いツールで、否定するつもりはない。ただ、自分のやり方には少し合わなかった。
ジャーニーマップは、認知から購入までを一本道で描く。でも実際のお客様は、行って、戻って、しばらく忘れて、また来る。一本道の絵にすると、その「戻る」や「忘れる」が地図から消える。描いた瞬間は納得感があるのに、実務で使おうとすると現実とずれてくる。そういう経験を何度かした。
だから今は、コンセプトダイアグラムを使っている。お客様の心理段階と、サイトのコンテンツ配置を重ねた図。順番を描かない代わりに、「この段階の人には、この場所に、これがある」という対応だけを描く。
これがMoment of Truthと相性がいい。4つの瞬間のどこでつまずいているか見当をつけたら、ダイアグラム上で「その瞬間を支えるコンテンツはどこにあるか。そもそもあるか」を確認できる。空白が見つかれば、そこが打ち手になる。
図は、どの瞬間を疑うかを決めるためにある。決めたら、その瞬間に絞って問いを立てて、直して、また様子を見る。この繰り返しのほうが、全体を網羅した美しい資料より役に立つと思う。
16個の問いを暗記する必要はない。「お客様が今、うちのどの瞬間でつまずいているか」。この一問だけ持って帰ってもらえたら十分だと思う。